第十二話 消えた涼子~それぞれの涙

【未来の武器 専門用語紹介】
◆AZエーゼット 友哉の健康管理から、転送、そして政府機関、機密機関などのファイアウォールを破り侵入できる万能のAiタブレット。中に人工知能「シンゲン」が入っている。ゆう子しか使えないはずが、友哉の指示にも反応した。正式名は実は「エージー」

◆RD「アールディー」未来の拳銃。ダイヤモンドよりも硬質のロンズデーライトをレーザーで核爆発させて地核のエネルギーを発生させる。手にした人間の意思で、威力の強弱ができるが、脳が進化した人間しか使えない。こちらも違う正称がある。

【ガーナラ】人口が激減したトキの世界での精力剤だが、男を凶暴化させるために禁止になった。友哉の足を治療するために再開発。数千種類の動植物の生薬とそれらをコントロールする化学物質が入っていて、腐敗していない人間を蘇生させることも可能。

【光】ガーナラとセットで開発させた脳をハッキングするまさに光。光のセンサーがレセプターを刺激し、人の体をコントロールしてしまう。

【リング】ゆう子と友哉が通信に使うだけではなく、友哉のリングには体内のガーナラを人に与える目に見えない針が付いている。

【プラズマシールド】友哉のリングから発生するバリア。この時代でもボーイング社などが開発済み。

【転送】瞬間移動。友哉のガーナラが東京都の電力と同様のエネルギーを発生させてワームホールを作り、その瞬間に移動する。障害物がない時は光の速度を超えるだけで、それほど疲労しない。

【R89】トキの世界で有事に備え、確率を計算する小型の装置。簡単な転送も可能にしてある。

【ストプ】違う時代の人間に危害を加えると、自殺を促す光。トキらが友哉の時代に来る前に浴びてくる


 白い薄手のニットとブルージーンズのシンプルな出で立ちの涼子は、利恵を見て、「お友達がいるなら帰りますね」と、玄関で言った。
「紹介するよ。重要な人物だから」
 ゆう子がそういうと、涼子が少しだけ首を傾げながらスニーカーを脱いだ。
 利恵が、「わあ、かわいい」と声を上げて、ソファに座るよう、自分が絨毯の床に移動した。
「あ、下でいいですよ」
「わたし、スカートだから床がいいの」

 利恵はスカートの裾をふわっと浮かせながら移動をした。そよ風が舞うようないつもの所作だ。
「可憐な方ですね」
と涼子が無表情で言う。
「うん。清楚可憐なこちらは友哉さんの彼女の宮脇利恵さん」
 利恵の隣に座ったゆう子がそう紹介すると、涼子が、
「え?」
と、声を出し目を丸めた。利恵をじっと見る。すると、利恵も涼子をまじまじと見つめた。長く見つめ合う二人。

「どーしたのー?」
と、ゆう子が二人の間で手を上下に振った。
「オーラのないアイドルdots
 ポツリと言ったのは利恵だった。すると、涼子が、
「見慣れた美女。どこにでもいそう」
と応戦する。しかし、二人とも物静かだ。
 ゆう子が、
「利恵ちゃんなら、個性的な美人だと思うけどdots。うん、タイプじゃないって男性もいると思うよ」
と言った。

「そうですか。わたしには平凡な美人にしか見えないけどdots
「あなたも、かわいいけどアイドルらしい華が見えないよ。気が強そうだし、マザコンの男の子ばかりがファンじゃないの?」
「うーん、当たっているけど、スカートをフワフワさせているお嬢様に言われたくない」
「そこから移動しただけ」

「普段もそうして男の人を魅了していると錯覚してる女に見える」
「今の男子なら、あなたみたいなボーイッシュな美少女が好きだと思う」
 二人はそう言いながらも、ケンカもせずに、まず利恵が腰を下ろした。
「静かに罵り合う異様な光景」
 ゆう子が首を傾げている。
 気を取り直した涼子が、
「この利恵さんって人があの人の彼女なら、ゆう子さんは本当に片想いなんですか」

 ゆう子を凝視した。
「二股」
 ゆう子がすました顔でワインを口にした。
「酔ってますね。それ、本当ですか」
 今度は利恵を見やる。
「うーん、厳密に言うと、ゆう子さんは仕事上のセフレ。わたしが彼女?」
「あー、本心言った!」
 ゆう子は思わず叫んだ。

「ウソウソ。そうならまだ救いはある。二人ともセフレ。または二人とも彼女で二股」
 利恵の言葉にゆう子が大きく頷く。それを見た涼子が、
「気持ち悪い女子二人dots
と、また首を傾げながら呟いて、気持ちをしっかり持とうと思ったのか、頭をさかんに振ってから、
「すみません。ゆう子さんはこちらに座ってくれませんか」
と先輩を気にするが、「涼子ちゃんと話をするなら正面がいいじゃん」と、ゆう子が制した。

「そうですか。すみません。あの、彼dots友哉先生って、適当に生きてる男の人だから、公然の二股もありえなくはないけれど、ゆう子さんはトップの人気女優で、そちらの方もまあまあ美人じゃないですか。友哉先生は独身なんだから、どちらかと結婚をしたいとか考えてるんじゃないですか」
「結婚?」
 ゆう子と利恵は顔を見合わせた。そしてすぐに、吹き出す。
「何がおかしいんですか」

「確かに適当。急にやる気無くしたり、またやる気になったり大変だよ。あんな頭のおかしな男の人がまた結婚なんて考えるはずない」
 ゆう子が真顔で言うと、利恵は利恵で、
「友哉さんと結婚は悪くないけど、即、離婚しそう。散財してセックスして食べるだけで、人生は終わりよ」
と言った。
「あのひとの悪口を言う女子会なんだ」

 涼子は、ワインを自分でグラスに注いだ。
「悪口を言って楽しめって言われた」
 利恵がそう言うと、涼子が神妙な目付きになった。そして口の中で、
「変わってないじゃん。イケてる」
と言う。
「え? なに?」
 ゆう子が問いかけると、
「悪口は良くないです」

と気持ちと違った言葉に変える。
「佐々木友哉研究会だ。彼は毛沢東になるか」
「毛沢東?」
「若い子は知らないと思うけど、中国にいたとんでもない奴だよ」
「知ってますよ。若い子って言うけれど、お二人とも若くて、毛沢東の話はできないと思いますよ」
「利恵ちゃんがね。博識なのよ」
 名指しされた利恵が、すました顔で、

「毛沢東は、ものすごい性豪で、人民の命なんかなんとも思わない独裁的社会主義者の代表格なんだけど、ゆう子さんが言うには優しさの欠片もなかった男らしくて、友哉さんとは違うって話をしていたのよ」
と言った。
「毛沢東と友哉先生となんの関連があるんですか。女の子の足が好きなだけで、政治には詳しいけど、その活動はしない作家さんですよ」
「足フェチだからなあ」

 ゆう子と利恵が一緒にため息を吐いた。
「昔、お父さんと一緒に会った時にも、足を見られて怖かったですよ。今、思えばわたしのミニスカが悪いんだけれど。見せておいて見たら怖いって矛盾していることはアイドルをやっていて痛感したから、今ではファンの男性たちにおおいに見てもらっています。だけど、ゆう子さんのその下着だけの姿は変です。女子会なんで」
 上がスウェット。下は薄いオレンジ色のショーツで胡坐をかいて座っている。スポーティなショーツだが、下着は下着だ。

「最初は短パンみたいのを穿いてたのに脱いだの。たまにおっぱいも出すの。もっと注意してくれる?」
 利恵も呆れ顔だった。ゆう子が、涼子を見ながら、
「友哉さんの前では基本、全裸で胡坐だよ。わたしの部屋で何が悪い」
と嘯いた。
「全裸で胡坐? ありえない。友哉先生はそれでいいって言ってますか?」
「何も言ってない。もしかすると、とっても嫌がってるかも」
「あれ? さっきまで喜んでるって言ってたのに?」

 利恵が目を丸めると、
「わたし、そこまでバカじゃないよ。半信半疑だ」
と笑った。
「なにそれ。勢いで喋ってるんだ。もう真面目に聞かない」
「全裸で靴下を穿いたり脱いだりして、いわゆるあそこをチラチラ見せていたら、心底嫌がったしね」
「全裸で靴下、マニアだね」
「マニアを意識したんじゃなくて、男性を興奮させるための技のつもりだったけど、友哉さんが嫌がったからやめた」

「靴下なら、わたしがいっぱい持ってますよ」
 涼子が自分の鞄を見た。
「夏も冷房で足が冷えるじゃないですか。わたし、三足、千円の安い靴下がいつも鞄に入ってます」
「だから? オチは?」
 涼子の話がつまらなかったのか、咎めるように言う。
「え? オチ? オ、オチはないです」