第二話 謎のPTSD

 空港に到着後、ワルシャワのホテルにチェックインする。もう夕方だった。
 部屋に入ると友哉はすぐに、「先に転送の練習をさせてくれないか」と、シャワーを浴びに行こうとしたゆう子を制した。女性のシャワーが長いと思うのだ。
 テロが起こるのは明日。時間が足りないような気がして、重要なことを早く勉強したかった。それにもっとも重要なのが、テロリストと戦った後に逃走するための転送と思って、気持ちが焦っていた。

「練習の必要はあんまりない」
 不機嫌な態度で言うゆう子。機内では、「練習しよう」と笑っていたのに、と友哉はため息を吐いた。
「女の気まぐれは二十世紀から許されるようになって、俺もかわいいと思うだけだが、君のバスタイムは何分くらいだ」
「一時間以上」
「ほらね」
「わかりました。さらに言うと、あなたが冷たければ二時間以上」

 ゆう子はAZを取り出し、手慣れた様子で入力作業を始めた。急に立ち上がると、AZを持ったままバスルームに行き、すぐにリビングルームに戻ってきた。
「近すぎるからじかに見てきた。じゃあ、やります。わたしが転送のボタンに触れると、バスルームに飛びます」
「あ、はいdots
 ゆう子の生真面目な表情を初めて見て、子供みたいな返事をしていた。
「ちょっと待て」
「なんですか」

「着ている服も一緒か」
「当たり前じゃないですか。持っている物も一緒です」
「普通に怖いって」
「トキさんと練習してある。絶対に平気です」
 そう言い終わらないうちに、勝手に転送されていた。友哉の眼前に突然、バスルームが現れた。着地に失敗して床に腰を強打したが、なぜか痛くなかった。
「自分で歩いて戻ってきて。早くシャワー浴びたいの」

 大きな声で言う。声が怒っていた。
「どうぞ。シャワーでもトイレでもどうぞ」
 リビングに戻ってきた友哉は、自分の体に傷や痣が出来ていないか確認しようとソファに座って、シャツを脱いだ。
「やだな。いきなり裸にならないでください」
 上半身の肌を露出させたら、ゆう子が目を逸らしながら言い、バスルームに駆け込んだ。
 ゆう子が開けたままにした旅行鞄の中には、色とりどりの下着やカジュアルな洋服が入っていた。

 開けて見せているのは下着がすべて新品だから恥ずかしくないということか、と首を傾げる。女性との旅行の経験は記憶の中で錆びついていて、他の女性がどうしていたかよく思い出せない。
lineしかし、貧乏だったあいつとはあきらかに違う下着と服。あのタブレットの俺の女の好み、間違っている。もっと庶民派の女性が好きなんだが、人気女優ではそれは無理か。
「もう少し、安っぽいパンツの方がリラックスできるんだけどなあ」

 思わず口に出してしまう。すると、
「聞こえてます。今度はその辺のスーパーで買ってきます」
と、ゆう子の声が頭の中に響き、友哉が仰天した。部屋はジュニアスイートの広さで、ゆう子はバスルームにいる。
「わたしのことを想って喋ると聞こえてしまうから、注意した方がいいですよ」
 指輪と指輪を使った通信機能だった。友哉が、自分の左手の人差し指にはめてあるリングをまじまじと見つめた。

「その前も少し聞こえた。庶民派がいい? ポルシェに乗ってるくせに。それとも草食男子?」
「安いパンツなら、破ろうが汚そうがなんでもできるって言ってる男に草食男子とはよく言ったものだ」
「冗談ですよ。AV女優をセフレにしていた男の人が草食なわけないもんね」
「セフレじゃなくて、ちゃんと付き合おうと思った。だけどすぐにいなくなったんだ」
「そうなんだ。なんとなくそんな気はしていたけど。dots看病とかしていたからね」
「看病?」

「セックスが終わった後に、しばらく寝ないで見ている」
「そんなの当たり前。酔ってセックスしたら、急に水を飲むために起きる女の子もいる」
「当たり前じゃない。まあ、いいか。真面目に言うと、前の彼女たちのプライバシーに関わるから、友哉さんの好みは誤魔化してあるんだと思います」
「なるほどね。トキは君の過去のことは教えてくれなかった」
 そう言うと、ゆう子は無言になってしまう。『過去』には触れず、

「三年一緒にいたら、自然と下着やらの好みは分かるから、わたしもそんなに気にしてない。今日は無難な色の下着にした」
と教える。
「かわいい色だよ。君はスーパーには行けないと思うし、それなりのブランドでいい。ありがとう」
「ん? 巨大地震が来る?」
 褒めると茶化すのか。照れ屋なのか。友哉は少し微笑した後、気持ちを整え、
「三年、三年って言ってるけど、つまり三年の期限付き愛人秘書ってことか」
と指輪とバスルーム、どちらともなく問いかける。

「愛人秘書ならセックスするって意味になります。やっぱりしたいのね」
 また、ゆう子の声が頭の中に入ってきた。聞こえるはずもない小さな声が電話のやりとりのように鮮明に聞こえる。
「言葉のあやだ。俺は独身だから、愛人って表現もおかしいか」
「呼吸が合ってきた。よく聞こえる。詳しいことは言えないし、わたしにもはっきりとは分からないんですが、三年後にわたしたちが事件に巻き込まれて、その時に友哉さんが傍にいないと困るんですよ」

「事件?」
「はい。事件が起こるの。まだ詳しくは言えませんが」
「なんで?」
「友哉さん、ショックで泣いちゃうかも知れないから、もう少し仲良くなってからにします」
 友哉はしばらく首を傾げたまま、体の動きを止めてしまっていた。徐に、顔を上げながら、

「仲良くなれなかったら?」
と訊いてみる。
「仲良くなれるそうです。三年後の事件の日に一緒にいるから」
「隠し事が多すぎて、君に何か目的があるようにしか見えない。あのトキって男と共犯で」
「もうなんでもいいですよ。打算的でも男性から愛されます。たぶんdots
「たぶん?」
 シャワーで体を流している音も聞こえた。

「世の中の男の人たちは皆、女に騙されてるじゃないですか。ちょっとかわいいとコロって」
「俺も君に騙されるって意味?」
「でも、わたしの場合はいろんなことがばれて、わたしがあなたに嫌われると思う。女らしいことができないからさ。しかも、女は優秀な男性には嫌われて当たり前の生き物ですよ」

「面白いことを口にするもんだ。俺が優秀かどうかはともかく、仮に天才が優秀だとしてゲイになる。女嫌いの女はたしかに女っぽい仕草はあまり作らないから、君に当てはまるかもしれないな。機内ではわたしのことを好きになるって自信満々だったのにどうした?」
「気分の問題よ」
「やっぱりdots。ところで、周囲の音も聞こえる。シャワーの」
「エロい? シャワーの音で声が聞こえないですか」
「いや、声は鮮明に聞こえる。不思議だな」

「エロい?」
「え? 音だけには興奮しないよ」
「そうなんだ。がっかりだな。何もかもがっかりだ」
 なにを嘆いているんだろうか。友哉は首を傾げた。
dotsそれで、三年後のその事件のためにも、友哉さんについているように言われた。秘書でもいいから観念してよ」
 急に話を元に戻している。
「わたしも、ぱっと見が好きなだけでここまでしつこくない」

「その事件のために三年も一緒にいるのか」
「その事件のためだけじゃなくてdots。それより、部屋で何してるんですか。なんでこないんですか」
「え?」
「せっかく、奥原ゆう子が近くで全裸でいるのに、興味ないの? 普通、覗くんじゃないかな。あんまり男性のことは分からないけどdots
「普通は覗かないよ」

「成田から一滴もお酒も口にしないでしょ。付き合いが悪い。つまんない」
「遊びにきたんじゃないからだよ。それに飲んでも、彼女じゃない女のバスルームは覗かない。そんな非常識な奴、滅多にいないよ」
「ずっと誠実そうなふりしてるよね。こっちは告白してるから、見たり触ったりしていいんだよ」
 だんだんと敬語がなくなっている。苛立っているようだ。
 部屋はジュニアスイートほどの広さで、近くと言っても数歩で行けるわけではなかった。

line乱交目的のパーティーじゃあるまいし、覗きに行くわけないだろ。
 友哉もイラッとしてきた。
「もう万策尽きた。せっかくファーストクラスだったのに、手も握ってないし、パンツも見たくないってアホか。適当に喋った記者会見の通りになっちゃってる。ファーストクラスの金返せ!
「君には自尊心はないのか」
 語気を強めて言う。
「自尊心?」

 言葉はそこで途切れて、やがて彼女が雑にバスルームから出てくる音がした。いったんドレッシングルームに入ったが、わずか数秒で出てくる。バスタオルを付けていた。ヘアバンドを持っていて、髪を結わきながら、
「わたしは、男の人にこんなことは言いたくない。だけど、生まれて初めて言う」
と言って、足を止めた。もちろん指輪の通信ではなく、じかの声だ。
「あなたは女に恥をかかせている」

 ゆう子が一メートルほど前に立ちすくんだまま、そう言う。友哉は、ゆう子からゆっくりと目を逸らした。
line確かにそうだ。彼女はずっと「好きだからいい」と言っているのだから。トキのことがあるとはいえ、自分でも不思議なほど慎重になっている。好きになってはいけない。そう、無意識に考えているみたいだ。
 友哉は、トキのある説明を思い出した。それは「避妊させるように」という例の『光』の

避妊の説明で、友哉はその話をトキが消えた後、スマートフォンで受け取った。いま思えば、彼の声はリングから脳内に直接入っていたのかもしれなかった。
「友哉様は私がさっき交渉した秘書になる女性と同じホテルなどに泊まることがあると思うので、そのリングを使った避妊のやり方をお教えします」
 脳内にある女性ホルモンを分泌させる下垂体を停止させるよう緑色の光がレセプターを探すというものだった。友哉がスマートフォンの画面を見ると、脳内の画像が出てきた。

「ここです。彼女の頭を見つめながら、これを探せばいいだけです」
と言う。赤い印がついている箇所があった。
「君にもらう報酬で部屋を別にすれば?」
「それはだめです。一緒にいないと戦えません」
「美人なんだよな。そんなおいしい話があるのか」
「おいしい? どういう意味の言葉遣いか分かりませんが、彼女を見ていると苦労するはずです」
「苦労?」

 友哉が訊き返したが、トキは何も答えず、通話は終わった。
「奥原さん、ちょっと待て」
 友哉が頭を掻きむしる様子を見せると、ゆう子もその勢いを止めた。
「トキって奴に二人とも騙されているとか」
 また言ってしまう。他の女性だったら、すぐにベッドに運んでいるはずだと、友哉は自分自身を疑った。
「違うんだって。もう、どうでもいいよ。優しいkissも楽しいデートもいらないから抱いてよ。たんなる女嫌いでしょ。だからセックスだけでもいいから。つまり、ベッドで一緒に寝たいの」

 バスタオルをつけたまま友哉に近寄ってきた。
「明日が不安じゃないの? 仕事のストレスを癒すために、わたしはあなたの傍にいるの。あなたの傷を癒すために派遣されたの。機内でずっと顔色が悪かったし、水分ばっかり摂ってたよね。足が治ったようだけど、あなたの車椅子の時の苦しそうな顔と変わってないのよ」
「そんなに俺の事故の後遺症とかを心配して、君もトキにお金をもらっているの?」
「もらってない!

 ゆう子が初めて大きな声を出した。ごく当たり前の疑問を投じたのだが、暴言だったとも言える。
lineなんなんだ、この温度差は。俺はこんな美女を拒絶する男じゃないのに。
「仕事、仕事って言うからだよ。まあ、そこにいったん座れ」
 ソファに目をやるが、ゆう子は立ったまま動かない。
「わたしの仕事は、あなたが大好きっていう仕事なんですよ。腹黒い目的でもなんでもいいから、三年間、我慢してください。ずっと一緒にいてくださいよ」

「なるほど、君と結婚しなかったら未来が変わるっていう定番の物語か」
「違うよ。結婚願望はないの。だからずっと死ぬまで傍にいさせて」
「死ぬまで?
「うん。すぐ死ぬから、そんなに迷惑じゃないから、わたしが死んだ後、別の女と付き合ってよ」
「重い病気でもしてるの?
「違う。今度、説明するから、死ぬまで一緒にいて」
 友哉が首を傾げるでもなく、顔を俯かせるでもない角度からゆう子を凝視していると、

「わたしを信じてよ」
と彼女は語気を強めて言った。
「信じる?」
 死ぬまで一緒にいる? わたしを信じて?
「それ、わたしを愛してほしいと何が違うか教えろ」
 怒気を見せると、ゆう子はびっくりして、「何か悪いことを言った?」と、すべての勢いを失い肩をすぼめた。

「教えろ。話が一方的すぎる。ちゃんと説明しないと今すぐ勝手に日本に帰る」
「えdotsど、どうしよう。えーとdots
 おでこに手をあてて、顔を曇らせたゆう子を見ながら、友哉は冷蔵庫に向かって歩いていき、ミネラル水を一本取り出した。床に座り込んだ彼女を見て、「ソファに座れよ」と、また言うと、ゆう子はゆっくりとソファに腰を下ろした。
「いじめてすまなかった。明日の打ち合わせがないなら寝なさい」

「明日はここから少し離れたレストランで、友哉さんがテロリストをやっつければいいだけです」
「そうか。簡単に言ってるけど、簡単じゃないと思うよ」
 ミネラル水を持って椅子に戻る。ゆう子は力なく座っていて膝頭がだらしない。迂闊に見せてはいけない股間の様子が丸見えになっていた。バスタオルの下は裸ではなくて、また下着をつけていたから油断しているともいえる。
line露出壁がありそうで、足元が常にだらしないな。

 友哉は落ち着かない様子の苦笑いをした。機内でも、スカートを捲り、太ももを擦ったりしていたものだ。友哉は水を持ってきたが、テーブルの上に置いてあったビールを口に運んだ。ゆう子の淫らな足の動きに興奮してしまっていた。何しろ映画とテレビでしか見たことがない人気女優の下着が見えたり隠れたりしている。尋常じゃない状況だった。
「君も飲めば?」
「ホテルの部屋代もルームサービスもわたしのお金」

「後で返すよ」
 ワルシャワの町は静かなものだった。芸術的に美しく、観光客はその街並みに酔い痴れた表情で歩いている。明日、どこかでテロが発生するようには思えない。
「信じてって言ったら、なんで怒られるのかわかんない」
 また声を上げるが、怒気ではなくべそをかいていた。
 大げさな貧乏ゆすりをするように足をバタバタさせる。まるで子供だ。彼女のその様子は、我儘なお姫様のようで、かわいらしい顔立ちのせいかなぜか不快に感じない。それとも彼女の言うように、俺がこの歳になって女の子の仕草に騙されているのだろうか、と友哉は思った。

 しかし、奥原ゆう子は噂に違わぬ美人で、かわいい女の子は得をしているなと、友哉は改めて分かった。
「男と女がセックスで始まるとセックスで終わるぞ」
 友哉の生真面目な言葉に、ゆう子は首を傾げた。
「そんなきれいごとを言うのね」
「悪い奴はきれいごとを言うのさ。レベル2なんだろ」
「うん。わたしだって1だしね」

「じゃあ、0の人間はいるのか」
dots
 ゆう子は、バスタオルを自分から取ると椅子から離れ、ゆっくりと友哉に近寄っていった。上下の下着を付けているが、下着姿の人気女優を見て友哉は我が目を疑っていた。ゆう子は彼の足元にいったん正座をして、腰を浮かしてジーンズのベルトを取り始める。
 まさかdotsと思う。
 彼女が仕事にしている演劇の中の芝居なのではないか。

「ごめんさない。下品なことを言うけど、やりたいの。久しぶりなの」
 瞬きをせずに言うその目が正気を失っているようにも見えるが、道徳的な姿をテレビで見ているせいか怖さはない。
line正直な女だ。
 友哉はようやく、いったん降参をすることにした。

 人気女優を簡単に抱けるシチュエーションが罠ではないかと疑ってやまないし、破滅願望を顕にして積極的にもなれなかったが、ゆう子が自分の体のどこかに触れると、その迷い、疑いがすっと消える感覚がした。ジーンズを脱がせようとしている彼女の手の指が、太ももや膝に当たると、抱きたくなってきた。
「やりたい女は自分からブラを外して、パンツも脱ぐぞ」
「おっぱいに自信がないから外さない」
「え? 見事なおっぱいだと思うよ」

「友哉さんの好みはもう少し、小さめです」
 それもトキからもらった記憶にあるのか。律子も、前の彼女も確かに奥原ゆう子よりも、小さい乳房だった。
 友哉は前の女たちを思い出させる彼女の言葉に一瞬冷めたが、ゆう子の手がペニスに触れると、意思に反してペニスは硬くなった。

 彼女は、少しずつ、友哉の下半身に顔を寄せていて、すでに口を小さく開けている。まさか涎が出そうになったのだろうか、一度、唾液を飲み込んでいた。
 飛行機内で妄想したとおり、口元に色香を纏った淫猥な女だった。フェラチオをずっとさせているだけで、数億円の価値があると友哉は思い、ただ、ただ、見惚れていた。
line女はセックスの価値をお金に例えると嫌な顔をするが、軽々しく愛していると言うよりも簡単じゃないぞ。本当にお金を作って渡すのは。

 友哉はゆう子の唇を見ながら、そんなことを考えていた。
 瞳はこの世の幸せを独り占めしたかのような汚れない直線的な輝きを見せているのに、口元は遊び心があるかのような稚気があった。
 そのアンバランスな顔で、友哉のペニスを口に含み、その瞬間に生真面目だった目つきも急に嗤わせた。
lineこの女は言う通り、本当にセックスがしたいだけなんじゃないのか。

 男性からの愛撫を受ける前に、こんなに恍惚とした表情を見せる女は初めて見た。口の中にヴァギナと同じほどの性感帯が彼女にはあるのだろうか。
lineトキという自称未来人は無関係で、ただの淫乱。そんな気がする。早くに決めるのはどうかと思うが、瞳が綺麗で猥褻な言葉もプライドがなくて直截的。純真なのかもしれない。または、男根崇拝dots
「太いdots。ずっと欲しい。死ぬまで」

 一瞬、口を離した時にそう言ったように聞こえた。すぐにまたくわえこんだから、友哉にはよく聞こえなかった。
「トキからもらった力の中に、それが黒人のように太く変化することはないよ。精力は無限に近いがね」
 ゆう子は友哉のその言葉には反応せず、虚ろな目を見せながら舌を動かしていた。

 友哉は、不自由になった足を治してもらったが、その治療に使った未来の世界の薬は足のケガを治すための薬ではなく、男性の体全体を強化する薬だと、トキが簡単に説明した。
 もともとは男性の精力を強化するために、古代にいた爬虫類や動物、腐敗物を食する鳥類のDNAを元にそれを栄養剤にした。南米などにある植物の生薬も使い、しかし出来上がったその薬は筋力も強化させ、病気も治してしまう万能の薬になった。

 男たちが虚弱だったため、体質を強化する動植物のDNAからの栄養素も使ったためだった。ところが、副作用が深刻だったため禁止されたらしい。
lineまだ副作用は出ていないが、この感覚だったら、奥原ゆう子をまさに三年間、存分に楽しむことができるのか。彼女の片想いが本気ならdots
 熱心にフェラチオを続けるゆう子を見ながらそう考える。だがdots

 女は、抱けば抱くほど離れていく。
line愛した女は必ずいなくなる。
 好みであればあるほど、束縛したくなる。それが女性軽視と言われる。
 トキから、「あなたの理想の女を秘書として与える」と言われた時に、理想じゃない方がいいのに、と考えていた。
「あ、俺、シャワー浴びてないよ」
 考え事をしながら、ゆう子のフェラチオに見惚れていた友哉は、はっとして思わず言った。

 ゆう子も長いフェラチオに疲れたのか、ようやくペニスから口を離し、
「シャワーに行ってる間に気が変わりそうだから、もういい。男性の匂い、嫌いじゃないし。そう、こんなふうに毎日でもするから高級なんとか倶楽部は解約してくださいね」
と、これまでのように喋り出した。怒気もなくなっていて友哉はほっとした。
「言われなくても、もう金がない」

 友哉のその言葉には反応しないゆう子。またフェラチオを始める。口の中に出させるつもりか、と思うが、また口を離し、何か卑猥なセリフを呟いた。「硬い」と言ったように聞こえた。ペニスから口を離した時に手を使わずに、握っているだけ。射精をさせたいのかさせたくないのか分からない生殺しのような愛撫だと友哉は思った。
「そろそろかなって思ったら止めるよね」
「え?そうですか。出していいですよ。好きなところに」

「どうやって?」
「下手だと思うから、あなたがわたしの頭を押さえて動かしてもいい」
「君なら顔だけでもいけるけど、なのに、いきそうになったらやめるから」
「それは顔だけでいけないってことですよね。やっぱり、AV女優や女子大生モデルの女は上手いの?」
 ペニスを持ったまま上目遣いで言う。少しメイクを落としているが、それでも美しい女だ。友哉は、目の前の美女に簡単に口説き落とされている気分だった。

「上手いからやってるんじゃないかな」
「早く解約してくださいね。気になるから」
「プロの女に対抗してどうするんだ」
「松本涼子の写真集を捨てて、わたしの写真集を買って。昔に一冊だけ出してある」
 そんなことまで知ってるのか。友哉は呆然としていたが、ゆう子の妖艶でいて、どこか少女のような邪気のない声色は、俗っぽい話も浄化してしまうようで、興奮と感動はいっこうに収まらない。

「でも若い頃の写真集は恥ずかしい。とにかく松本涼子はだめ。若い、おっぱい小さい、超かわいい。なのに水着は際どい。絶対に捨ててね」
「会ったことあるの?」
「んー、あるかな。新しいアイドルの子、いっぱいいるからよく分からないね。興味あるんだね。芸能人に興味ないとか言って。なんかむかついてきた」
 怒ると愛撫を止めるのかと思ったら、増して熱心になった。嫉妬でセックスが乱れるタイプだと分かる。